民法改正(8) 意思能力制度の明文化

意思能力は、行為の結果を判断するに足るだけの精神能力です。例えば、幼児や重度の認知症の患者は、意思能力がないと言えます。行為能力は、行為に対する責任を負わせることができない者ですから、意思能力があっても行為能力がない、ということがあり得ます。

意思能力を有しない者がした法律行為は無効です。これは判例・通則で認められていますが、民法上で明文化されていませんでした。これを明文化したのが改正民法です。

これまで認知症などの高齢者を保護するための制度としては、成年後見制度がありました。成年被後見者の行った行為は、行為能力がないため、取り消しが可能です。しかし、逆に言えば、取り消しまでは有効なのです。さらには、そもそも成年被後見人とするためには、家庭裁判所の審判が必要です。

一方、意思能力がない者の行為を無効とすれば、家庭裁判所の審判も不要ですし、取り消しという意思決定も不要です。この点、認知症の高齢者が売買契約を結んでしまったなどの際に、無効を主張して代金返金請求をすることが、容易になります。

また、これに合わせて、意思能力を有しなかった者が相手方にする原状回復義務の範囲は、「現に利益を受けている限度」にとどまるという規定も新設されました。これは行為能力がない者の現状回復義務が、同様の範囲にとどまるのと同じ趣旨となります。

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小笠原 裕
小笠原 裕中小企業診断士 行政書士
バラの咲く街、八千代市緑が丘で、コンサルティング事務所を運営しています。