民法改正(9) 意思表示に関する見直し

意思表示の瑕疵については、民法は5つの類型を定めています。心裡留保(93条)、通謀虚偽表示(94条)、錯誤(95条)、詐欺(96条)、脅迫(96条)です。このうち、錯誤に関して大きな見直しがありました。

錯誤は、条文では「法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」とだけ書いてありますが、錯誤無効は強力な効果があるため、これまで判例で細かい制限がありました。意思表示に対応する意思を欠いていること、錯誤が重要なものであることです。

さらには、錯誤には2種類あり、表示と真意が異なる場合と、表示と真意は一致しているが動機が異なっていることです。動機の錯誤については、通常は表に出ないものなので、錯誤とするためには、動機そのものが表示されている必要があります。

新民法では、錯誤と判定するための要件を、以上の点から細かく規定しています。

更に大きな変更は、錯誤は無効ではなく、取り消しの対象となったことです。例えば詐欺による取り消しは、知ってから5年で消滅時効にかかります。錯誤無効は行使の期限がないことと比べると、自ら錯誤に陥った者をそこまで保護する必要があるのか、という問題があります。新民法では取り消しとなったため、詐欺や脅迫と同様の扱いになったわけです。

また、一般的な無効は誰からでも主張できますが、錯誤無効は表意者保護の観点から、相手方からは主張できないというのが判例でした。それであれば、取り消しとして扱った方が、法的には妥当です。

錯誤の要件が判例に合わせて規定化されたこと、そして錯誤無効は取り消しに変更されたこと、この2点が、大きな変更点であると言えます。

投稿者プロフィール

小笠原 裕
小笠原 裕中小企業診断士 行政書士
バラの咲く街、八千代市緑が丘で、コンサルティング事務所を運営しています。