民法改正(19) 相殺禁止に関する見直し
相殺とは、自分が相手に対して持っている債権(自働債権)をもって、相手が自分に対して持っている債権(受働債権)とを、同じ金額分につき差し引きゼロにすることです。相手方に対する相殺の通知で、効力が発生しますので、例えば債権を保全する際に相殺を行ったりします。
しかし、相殺は強力な効果があるため、いくつかの制限があります。その一つが、不法行為債権を受働債権として相殺をすることは一律禁止にするというものです。不法行為を行って、相手に対して損害賠償の債務があるのに、相手に対する債権で相殺するというのは、再度の不法行為を誘発したり、被害者に対する現実の給付を妨げたりすることになる、というのがその理由です。
ところが、交通事故などでお互いに損害賠償請求権を持つ際に、相手方が無資力であると、その損害賠償が実行されず、こちら側のみ損害賠償を行うことになり、不都合が生じます。
そこで、相殺禁止の対象となる不法行為債権を次の①②に限定し、それ以外は相殺可能にしました。
①加害者の悪意による不法行為に基づく損害賠償
② 生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償
これにより、いかなる不法行為債権も相殺不能とすることによる弊害を解消することができるようになりました。