民法改正(30) 寄託に関する見直し②

寄託契約に関しては、いくつかの改正がなされています。

一つは、第三者からの引き渡し請求に対する規程です。受寄者が寄託物を保管している際に、その寄託物は自分のものだから引き渡せと要求する第三者が現れた場合、受寄者は誰に返すべきか、という問題が発生します。現行民法ではこれに対する明確なルールがなく、単に受寄者は寄託者に通知する義務があるだけです。

この点について、改正民法では、受寄者は、原則として寄託者に対して寄託物を返還しなければならないと規定しました。

ただし、受寄者が訴えの提起等を受けたことを寄託者に通知した場合、確定判決で、「寄託物その第三者に引き渡せ」という確定判決等があれば、その第三者に寄託物を引き渡すことで寄託者に対する返還は不要としました。

もう一つは、寄託物が一部滅失したりした際に、寄託者の損害賠償請求や受寄者の費用償還請求が寄託物の返還後にされる場合、その事故が保管中に生じたものかどうかで争いが発生することがあります。現行民法では、寄託者の保管中に問題が起きたのに、損害賠償請求権の消滅時効が寄託期間中に完成する可能性があり、これは不合理です。

そこで改正民法では、寄託物の損害賠償や受寄者の費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないと規定しました。また、寄託者の損害賠償請求権については、寄託者が返還を受けた時から1年を経過するまでは、時効の完成を猶予されます。

具体的な寄託に関するルールを明確化することで、実務運用を円滑に進めることが可能となりました。

これで、改正民法に関する説明は終わりです。私自身も勉強しながらの連載でしたが、今回の民法改正の基本思想が、判例や通説や実務上の運用を明文化すること、予め合意した内容を履行したかどうか、ということを重視しているものと思いました。改正民法は施行されて間もないですが、今後様々な紛争の解決に貢献するようになるでしょう。私も契約書の作成業務などの際に、間違いのないように整理していきたいと思っています。

投稿者プロフィール

小笠原 裕
小笠原 裕中小企業診断士 行政書士
バラの咲く街、八千代市緑が丘で、コンサルティング事務所を運営しています。