溶融塩原子炉

溶融塩原子炉とは、これまでの主流である固形燃料による原子炉ではなく、液体燃料による原子炉です。脱炭素社会に向けての模索が続けられていますが、風力発電や太陽光発電など、自然のエネルギーをそのまま発電に持ち込むのは非常に不安定で、安定電源としての役には立ちません。化石燃料を使い続けるのでは脱炭素につながらず、現在の軽水炉型原子炉は再稼働に対する抵抗も大きく、課題が少なくありません。

軽水炉型原子炉は、ウランを濃縮して固形燃料とし炉内で反応させるので、原子炉内の熱交換系が複雑であり、水素爆発などの危険がある上、固形燃料加工・廃棄物保管など、様々な問題があります。
これに対して溶融塩原子炉は、燃料自身が液体なので、反応した燃料をそのまま循環させ、熱交換することができます。

材料にはトリウムを使用し、これを塩(塩化ナトリウムではなく、フッ化リチウム・ベリリウム)に溶かし込んで、反応炉の溶融塩をそのまま循環させ、熱交換機を経由して水蒸気を発生させ、発電用タービンを回す、というしかけです。

メリットとして、下記があげられます。
・原子炉・冷却系が常圧なので、水素爆発などシビア事故につながらない。
・反応が進んでも連鎖反応しないので、メルトダウンが起こらない。
・構造がシンプルなので、原子炉を小型化でき、コストも安い。
・材料のトリウム資源は地球上で偏在しておらず、エネルギー安全保障上有利。
・廃棄物はガラス固化するので、廃棄物量が少なく廃棄も容易である。
・プルトニウムをほとんど生成しないので、核兵器に転用されない。

デメリットとしては、溶媒である塩がフッ化物なので、腐食性が高く、循環系に問題が発生しやすい点があげられます。

功罪比較すると、経済面・安全面・安全保障面・コストなど、様々な点で有望な原子炉です。
今から約60年前に、アメリカので実験炉が建設され、約4年ほど稼働したそうです。
中国では既にこれに着目して、2020年代の早い時点で実証炉を稼働させる予定です。
我が国においても、もっと議論してもよい技術ではないかと思います。

投稿者プロフィール

小笠原 裕
小笠原 裕中小企業診断士 行政書士
バラの咲く街、八千代市緑が丘で、コンサルティング事務所を運営しています。